自筆証書遺言を作成するときの注意点
法務局において自筆証書遺言を保管できる「自筆証書遺言書保管制度」の利用が拡大しています。遺言書の紛失・改ざんリスクを軽減し、家庭裁判所での検認手続きを省略できるというメリットが注目され、利用件数は右肩上がりに推移しています。
1. 制度概要
この制度は、遺言者本人が自筆で遺言書を作成し、それを法務局(遺言書保管所)に申請・保管してもらう制度です。保管された遺言書は、遺言書保管官が外観チェックを行ったうえで原本と画像データとして管理されます。
保管期間の目安は、原本が死亡後50年、画像データが150年とされています。
2. 利用件数の推移
この制度は令和2年7月から運用が始まりました。
公開されている統計によれば、令和6年7月時点での保管申請累計件数は **79,128件** に達しています。
また、直近の年次推移をみると、令和5年(1月~12月)の保管申請件数は **19,336件**、令和4年は **16,802件**、令和3年は **17,002件** という統計が報告されています。
特に注目すべきは、令和4年から令和5年にかけても件数が増加している点で、制度の認知拡大と利用者の信頼が高まっていることを示唆しています。
3. 制度利用のメリット
- 検認手続きが不要になる: 通常、自筆証書遺言を発見した場合は家庭裁判所での開封前検認が必要ですが、法務局で保管された遺言については検認が不要になります。
- 紛失・改ざんリスクの軽減: 遺言書が法務局で適正に保管されるため、遺言書の破棄・隠匿・改ざんなどのリスクを抑制できます。
- 相続人への通知機能: 保管申請時に相続人等への通知を設定できるケースがあり、遺言の存在を知ってもらいやすくなります。
- 低コストで手続可能: 保管申請の手数料は比較的低額(3,900円程度)で、近隣の法務局で申し込みが可能な点も利用のハードルを下げています。
4. 利用時の注意点・リスク
一方、制度利用にあたっては以下の点にも注意が必要です:
- 制度利用=遺言内容の有効性を保証するものではない: 法務局が遺言の形式について外観確認を行うのみで、内容の合法性や解釈までは保証されません。
- 保管制度を使わなければ検認は必要: 保管制度を活用しない自筆証書遺言は、遺言者死亡後に家庭裁判所で検認を受ける必要があります。
- 方式不備で無効になる可能性: 遺言書の記載方式(年月日・住所・氏名・押印など)が法律要件を満たさないと無効となることがあります。制度利用時も外観チェックはありますが、完全に防げるわけではありません。
- 保管申請は遺言者の“出頭”が要件: 遺言者本人が法務局へ出向いて申請する必要があり、代理人対応には制限があります。
5. 利用手続きの流れ・ポイント
代表的な申請~利用までの流れは以下の通りです
- 遺言書を自筆で作成(日時・住所・氏名・押印などを正しく記載)
- 法務局に事前予約を行う(訪問が必要な場合あり)
- 保管申請書類の提出と本人確認手続き
- 保管時に遺言書保管官による外形チェック・画像化保存
- 相続発生後、相続人等は法務局に「遺言書情報証明書」や「閲覧請求」を行うことが可能
6. まとめ・今後の展望
「自筆証書遺言の保管制度」は、遺言書の安全性を高め、相続手続き負担を軽減する有効な制度です。実際、利用件数は年々増加しており、令和5年の保管申請件数は19,336件にのぼりました。
とはいえ、公正証書遺言の作成件数はなお高水準で推移しており、遺言内容が複雑な場合や法的チェックを重視する方には、公正証書遺言を選ぶケースも多い状況です。